BLOG
ブログ

自叙伝

SPC入会で「100人」がより現実的に

その頃、俺が師匠と仰いでいた同じ滋賀県内で20人ほどのスタッフを率いる経営者の師匠を通じて、

理美容室オーナーの団体・SPC JAPAN(現・SPCGLOBAL、以下SPC)の存在を知った。

SPCは理美容業界の経営者が自己研鑽するための組織で、手前味噌だが美容業界の歴史を塗り替えてきた組織だといえる。
当時はそんなことまで知らなかったが、「新年の決起大会があるので、一度見に来ないか」とお誘いを受けた。

その日は1995年1月18日。阪神・淡路大震災の翌日だった。

俺は「ただ師匠に言われて同行している」くらいの気持ちで参加していたが、座っていたのがSPCの重鎮が居並ぶテーブルだった。

そこでいろいろ聞かれたが、俺はいつも通り、臆することなく自分の考えを語った。

そんな姿勢を面白がって、話を聞いてくださる先輩もいた。
会が終わって、俺はゆっくりと露天風呂につかっていた。

すると、さっきの会に参加していたと思われる人が近寄ってきて、声をかけてきた。

「キミ、店はどれくらいなの?」と聞かれたので「2軒あって、8人ほどのスタッフでやってます」と答えると、
「すごいね。がんばってるじゃん」と。俺もいい気分で同じ質問を返したら、

「僕のところは潰れそうな店ばかりだけど、15軒ほど。スタッフは200人くらいかな」と返してきた。

これを聞いて俺は「それやったら、俺もスタッフ100人の目標は達成できる」と、心のスイッチが入った。

そして、俺はすぐさま入会を決めた。

 

SPCは週に1回、店が営業している水曜日に集まってミーティングをする(地域によって異なる)。

毎週顔を合わせる人が、100人、150人とスタッフを抱えている現実を前にして、

「俺にはできない」と諦める経営者も少なくないだろう。

でも、俺は「俺にもできる」と奮起し、目の前にいる人の言動に触れながら答え合わせをしていった。

スタッフ8人の経営者という分際で偉そうかも知れないが、俺はスタッフが100人以上の経営者の背中を見るようにした。

少しでも時間を長く、濃く親交を重ねて、現状の壁を打破するヒントを得ながら、

スタッフ100人へ近づけていきたいという思いが強かった。だから、食らいついていった。

経営者の一人に、「どうしてこの人は、そこまで心を読み取れるんやろ」と不思議に思う人がいた。

SPCの定例会議では、発言する内容や表情を見ながら、的確にフィードバックを行う。

その人の様子を毎回眺めていると、俺もだんだんと「次はこういう発言をするんやろな」と先が読めるようになってきた。

それで「あ、ほらほら思った通り、言うてる言うてる」と。

これは、俺自身が小さい頃から、人の顔色をやたらと見て育ったことも役立っていると思う。

幼い頃に、他人の顔をじっと見ていて、「人の顔をじろじろ見るな」と叱られた記憶がある。

そう考えると、もともと人への関心が強いのかも知れない。

そうやって大きくなってきたから、子どもの時分から大人が何を考えているのかもわかった気になっていたし、

今も周りにいる人の顔色や雰囲気でなんとなくそれがわかる。

いや、わかりすぎるから人づきあいがうまくいかないのかもしれない。

40歳にもなって、おふくろに「あんたもそろそろ大人にならなあかんで」と言われたことがある。

じゃあ、大人と子どもの違いってなんやねん、大人の定義ってなんや、と考えて、周りにいる人を見回した。

そして気づいたのが「言ってる、やってる、思ってるの一致」という原理原則だった。

子どもの多くは、周りに他人がいたとしても、空腹だったら「お腹が空いた」と平気で文句を言い、

納得がいかなければ駄々をこねる。ところが、大人へと成長していくと、いつしか空気を読むようになる。

「相手に好かれたい」「自分が損をするようなことはしたくない」との想いから、自分の意思と反していても、

相手が表面的に察することができる言動は、相手に合わせて変えていく。

それは協調性という言葉で美化されていて、当然のように言動をコロコロと変える人は多い。
だが、経営者がスタッフを前にして、言動を変えてしまったらどうなるだろうか。
懸命に働くスタッフは、不信感を持つに違いない。

逆に、「言ってる、やってる、思ってる」が一致した姿勢を貫き、自らが努力し、

宣言した通りの成果を出していく姿に、スタッフは信頼を寄せるだろう。

リーダーはこれを肝に銘じておくべきだ。
さらに深く考えていくと、「思ってる」ことについては目に見えるものではない。
だから、「きっと相手はこう思っているに違いない」というのは独りよがりで、何の根拠もないのだ。

しかし人は、自分勝手に相手の想いを想像し、言動を変える。悪く言えばごまかしだ。だが、果たしてそれでいいのか。
俺は自分に正直に、自分らしく生きることが大事だと思っている。

相手がどうであれ、環境がどうであれ、自分の言動を変えることはない。そして、相手に対しては勇気ある指摘もする。

だが、俺はこれまでの経験で、同じ言葉を用いて指摘をしても、伝わり方が違うということを知っている。

その違いとは、相手への想いだ。相手を認めて、本気になって相手のために発した言葉は奥底にある心とともに伝わるものなのだ。

そして、伝われば相手が変わる。だからこちらも、想いを高めて接していく。

このくり返しで、自分も相手も高めていくことができる。

そうした人間関係を、経営者はあらゆる人と構築していかねばならないと俺は考えている。