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今村語録

高校になじめず、警察犬訓練所へ

これだけを聞くと毎日楽しそうと思うやろう。でも俺は、学校というもんに馴染め
なかった。友達も少なかったし、先生からはあきれられていたからだ。
というのも、俺は自分の思うようにならないことがあったら、周りの環境や他人のせいにする天才やった。自分は何もしていないことを棚に上げて「自分をそうさせているヤツが悪いんや」と。そんなことを言うやつは、だれだってつき合いにくいな、嫌やなって思うやろう。そして、社会的にも認められるわけがない。

そんな周りの気持ちも感じていたから、だんだんと人間関係がうっとうしくなってきて、中学を卒業する頃には、進学する気になれんかった。だが、おやじは「高校くらいは行け」と説得してくる。俺は「お前が行ってへんのに、えらそうなこと言うな」
と悪態をついて見せた。だが、おやじの言うこともわかる。結局は進学をすることにした。

おやじは7人兄弟の次男坊で、長男が亡くなってしもたから、2人の弟を高校に行かせるために進学をあきらめたらしい。その話はおやじが亡くなってから聞いたわけで、当時は知るよしもない。俺はやっぱり高校生活もなじむことができずに、結局は
3カ月で辞めた。辞めたというか、クビといった方が近い。ああ言えば、こう言う。
自分の思ったことをオブラートに包まずそのまま言ってしまうから、うまく人間関係
が構築できず、やっぱり集団生活になじめない。それで先生に散々悪態ついていたら、
「お前はもう学校に来るな」と言われてしまった。それで家出して、学校へ行かんかったんや。

そんな俺は、人の好き嫌いは激しかったが、犬はどんなヤツも好きやった。犬は、
人間と違って俺の言うことを黙って聞いてくれる。人間は言い返してくるから、俺もそれに突っかかってもめてしまうわけやから。それである時、警察犬の訓練士になろうって思った。まるで人間関係から逃れるように。そのことをおやじに伝えたら「今度こそケツ割んなよ」と言いながら、背中を押してくれた。

それで、しばらくして見習い訓練士になることができた。犬は人間と一緒で、優秀
だといわれる犬と、そうでない犬がいる。訓練で覚えのいい犬は個室で育てられ、他
の犬は5、6頭が一つのサークルに入れられている。エサにも違いがあって、いわゆるエリート犬はドッグフードに鶏肉を混ぜて粉ミルクまでかけてくれる。かたや他の落ちこぼれ犬は、残飯のみ。散歩さえも連れて行ってもらえない。
俺は落ちこぼれ犬たちと、学歴社会で脱落した自分を重ねた。そいつらの姿を見て
「お前ら大丈夫や、俺に任せとけ」という気持ちになって、所長には内緒でまったく
逆の待遇にしてやった。落ちこぼれ犬にはいいエサをあげ、散歩も連れて行く。ブラッ
シングもしてやった。そうなると、朝散歩連れて行く時は完全に僕を頼りきった表情
をしている。そんなことが半年くらい続いたかな。結局はそれがバレて、クビになってしまった。

退所の日。訓練所の前にはおやじが迎えに来ていた。おやじは俺のことを見つけるなり、いきなり走ってきて殴られた。「またケツ割ったんか」と。「いやいや俺がケツ割ったんちゃう。所長がケツ割りよったんや」。そう事情を話していると、おやじもさす
がに「もうわかった」とあきれ顔になっていた。でも、これは事実で、今度はイヤで
辞めたんやない。いま振り返ってみても、あの時にクビになってへんかったら、その
世界でそれなりにやっていけた自信はある。俺はそう思いながら家へと戻った。